あの人はなぜ家を出たのか? 先人に学ぶ家出のすすめ【適菜収】
【新連載】厭世的生き方のすすめ! 第9回

■家出ならトルストイに学べ
俗世と離れるためには、まずは人間関係を切ることが必要だ。西行は妻子があるのに出家した。とりあえず離婚してみるのもいい。子供は口減らしのため奉公にでも出せばいい。親は「楢山節考」みたいに山に捨ててくればいい。
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犬を捨てたら、飼い主より先に自宅に戻っていたという話は昔からよくある。女房や親も先に自宅に戻ってきてしまう可能性もある。それで「なんで私を捨てたんだ」と詰問されたら、たまったものではない。
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この問題を解消するにはどうすればいいか。「殺して遺体を山に捨てればいい」と言う人がいるかもしれない。しかし、そんなことをしたらかわいそうだし、そもそも犯罪である。それで逮捕されて「とりかえしのつかないことをしてしまった」と言っても遅い。覆水盆に返らず。殺人はおすすめできない。それなら、自分が離れればいいのである。つまり家出だ。
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家出なら気楽だ。家から出れば、ある意味では家出である。最初は半日くらいの家出を繰り返し、徐々に期間を延ばしていく。数日から数週間、数カ月、数年と。そうなると、ある程度のコンセンサスが得られる。「もう帰ってくるつもりはないのだな」と。
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寂聴は夫の教え子と不倫し、夫と3歳の長女を残して家出した。トルストイは女房が嫌になり、82歳にもなって家出した。家出から10日後に肺炎で死ぬが、その気力と行動力は素晴らしい。私の知り合いの文芸評論家も女房が嫌になり家出した。そして死んでしまった。いい人生だったと思う。
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私も家出したい。家出したら歌舞伎町のトー横に行きたい。トー横にたむろしている若者に煙たがられるかもしれないが、そのときはアメ横でもいい。
文:適菜収
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